ALPS処理水については、これまで風評への影響などを勘案し、タンクでの保管を継続してきました。しかし、タンクが既に1000基を超え、周辺地域の安全に不可欠な廃炉作業を着実に進める上で支障が生じることに加え、タンクの存在そのものが風評に繋がることや地震による漏洩のリスク等を懸念する声もあることを踏まえ、現状を見直す必要がありました。ALPS処理水の取扱いについては、海洋放出以外の処分方法等も含め、6年以上の時間をかけて専門家による検討を行い、ALPS小委員会が次のような検討結果を公表しました。
(1)地層注入、水素放出、地下埋設については、いまだ技術的に確立していないなどの課題があること、(2)水蒸気放出については、日本国外の事故炉で実際に行われた前例があるものの、放射性物質の放出後の拡散について事前予測が困難で、モニタリング等の対策の検討に課題があること、(3)タンク保管の継続については、東京電力福島第一原発でのタンク増設は限定的であり、保管の長期化は廃炉作業の妨げとなること。
今回、処分方法として海洋放出を選択した理由は、こうした検討の結果、各国の放射線防護基準において広く参照されている国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に沿って従来から定められている規制基準を厳格に遵守することを前提に、国内外で放出実績がある点やモニタリング等を確実かつ安定的に実施可能な点を評価したためです。海洋放出は、これまで各国の原子力発電所で実施した前例や実績があり、技術的な不確実性が少なく、放出設備の取扱いや放出後のモニタリングが比較的容易であることから、処分に当たって前提となる周辺環境の安全性を確保しながら実施することができます。基本方針の発表を受けて、グロッシーIAEA事務局長が声明を発出し、我が国の発表を歓迎するとともに、(1)海洋放出は技術的に実現可能であり、国際慣行にも沿っている、(2)管理された海洋放出は世界の原子力発電所の運用国で日常的に行われている、さらに(3)日本の要請に応じて、IAEAは日本の計画の安全性と透明性をレビューする技術的支援を提供可能である旨発言しています。
国のタスクフォースで検討され、「規制的、技術的、時間的な観点から現実的な選択肢としては課題が多い」とされています。2013年12月、IAEA調査団から、ALPS処理水の取扱いについて「あらゆる選択肢を検証すべき」との助言があり、それを受け、国はタスクフォースを設置し、技術的に実現可能な処分方法として、「地層注入」や「地下埋設」も含む、様々な選択肢について検討を行いました。
「地層注入」は、ALPS処理水を地層中にある隙間に注入し、封入する方式です。注入に適した地層(貯留層)が必要です。福島第一原子力発電所の敷地の下あるいは近傍に適切な地層があるかは分かっておらず、適切な地層が見つからなければ地層注入はできません。国のタスクフォースでは、「注入した水を長期にモニタリングする手法が確立しておらず、安全性の確認が困難」との意見もあり、また、処分濃度によっては、新たな規制・基準の策定が必要となる点も課題とされました。
「地下埋設」は、セメント系の固化材にALPS処理水を混ぜたものをコンクリートピット内に流し込んで固化し、地下に埋設する方式です。国のALPS小委員会の報告書においては、コンクリート固化による地下埋設について、(1)固化による発熱でトリチウムを含む水分が蒸発する、(2)新たな規制の設定が必要となる可能性があり、処分場の確保が課題となる、とされています。(出典:東京電力)
日本政府は、2021年4月13日に基本方針を発表する前から、周辺国をはじめとする国際社会に対し、最大限の透明性をもって、積極的に情報提供に取り組んできました。基本方針に明記しているとおり、関連する国際法や国際慣行を踏まえ、海洋環境に及ぼす潜在的な影響について評価するための措置を採るとともに、放出後にも、これまで実施してきたIAEAによるレビューを受けつつ海域モニタリングを継続的に実施し環境中の状況を把握するための措置を講じます。こうした放出後の情報についても順次公開していく考えです。