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「城北洞の書斎から」
"ポアンカレのコンジェクチュア"と(全く無関係な)
日本史上の或る"コンジェクチュア"映画や匂いの話


在大韓民国日本国大使館 特命全権大使
大島 正太郞

先月のニュースの中に、『ポアンカレのコンジェクチュア(Conjecture)』という数学上の難問の解決に関する話があった。

100年余り前に提起され、多くの数学者が挑戦したものの、これを証明できなかったが、最近これを証明した学者が現れた、ところが、その学者は数学の

分野のノーベル賞とも言われる最高の賞(フィールズ賞)を辞退したというニュースだった。数学は学校の頃から苦手だった自分にとって、数学の話が

面白かった訳では必ずしもなく、『コンジェクチュア(日本語では「ポアンカレの予想」と訳されている)』という概念が、極めて論理的だと思っていた

学問である数学の中で重要な意義を持っていたこと、また、それを証明するという課題があることが面白かった。

"『コンジェクチュア(英和辞典では、推量、推測、憶測と出ている)』を証明する"というのはどういうことなのだろう、日常的な世界では意味を成さない

言い方だ。話は変わるが、9月は台風の季節だ。そこで、日本史上で有名な台風の話。

13世紀の終わりに元が日本侵攻を試みた。当時日本は鎌倉時代。

1274年と1281年二度にわたり大軍を派遣するが、九州の博多近辺に結集した先方は、まともな上陸を果たす前にいずれの時も暴風に会い、

大艦隊は壊滅、日本は辛うじて救われたと言われている。そこで、二度の暴風を後世の人々が、日本が神によって送られた風で救われた、として

『神風』と言うようになった、というのが、普通日本で言われている話だ。

この『神風』伝説に関連して、最近この辺の日本の歴史の話を改めて読んでいたら、意外なことに直面したので、そのことについて紹介してみたい。

最初の元寇である1274年の「文永の役」の時は、初日一旦上陸した敵軍に苦戦した日本の武士は、翌朝、恐れながら湾の方を見やると敵軍は

忽然と消えていた。

しかし、当時の日本側の記録には、暴風が吹いたという言及はどこにも見つからない。しかも、これは太陽暦で言えば11月下旬だったので台風の季節

ではない。したがって、一度目の元寇の撤退は台風によるものではなかったのではないか。どうも、二度目の元寇である1281年の「弘安の役」の時は、

太陽暦の8月16日の晩であったので、季節的には台風に遭ったとしてもなんら不思議は無い。

実際、鷹島周辺に結集していた敵の艦隊が台風により壊滅したという記録は沢山残っている。逆に、一度目の「文永の役」の時の突然の敵の退散も台風などの

暴風によるものに違いないという伝説が後日出来上がったのではないか、というのが最近の有力な学説だということだ。

そうだとすると、「文永の役」も『神風』で救われたという説は、歴史についての『コンジェクチュア(この場合の訳は『憶測』とするべきだろう)』

ではないか。

他方、「弘安の役」の『神風』とは夏の終わりから秋にかけて日本を襲う台風だったという記録、つまり文書としての資料は多い。

しかしながら、果たしてその証明は出来るのか?

この問題に取り組んだ、海中考古学者の話を、テレビのドキュメンタリー番組で見たことがある。元の巨大な艦隊が結集した伊万里湾の海底を調べてみると、

昔の木造船の残骸が沢山出てきた、これで、船が大量に沈没したことは実証できた。

そこで、沈没の原因が台風である証拠はあったのか。

それがあった。

海底に大きな木造の錨が複数見つかったが、それらは皆同じ方向を向いていた。つまり、これは、台風が吹き荒れ、海面に浮かんでいた艦艇が皆同じ方向に

吹かれ、錨を引きずり、最後に錨で支えきれず、沈没した結果生じた現象であるはずで、したがって台風が吹いたことの物証だ、ということだった。

歴史資料に記録されていた「弘安の役」の時の台風について、文書だけでは満足することなく物証を探す、この真理追求の心意気に感心した。

台風の話を書いてきて、子供の頃東京でも台風が来ると大変だったことを思い出した。雨戸の打ち付け、停電、それに備えたろうそく、などの思い出。

そして、台風の目が真上を通過するときの、つかの間の青空の見える静けさ。

 

 

 

 

 


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