武藤大使新年挨拶(2011年)

韓国に着任してあっという間に4ヶ月半(2010年12月20日現在)が経ちました。私は韓国に赴任して、日韓の新しい100年の関係を考えたいと述べ
ましたが、新しい関係がどのようなものになるか、この4ヶ月半の間に輪郭が見えてきたように思います。
これまでの100年の始まりは、日本が韓国を植民地とした35年間です。その後、日本の敗戦を経て韓国が独立し、65年に国交を回復しました。しかし、
国交正常化後においても、歴史の重みが原因となって両国の関係はしばしば緊張しました。国交正常化後の45年間は歴史の負担を人的交流や文化交流を
通じた相互理解と友情を培うことで克服してきた時代でした。特に関係改善のきっかけとなったのが、ソウルオリンピック前後の両国民の観光交流の増大と、
98年以降の韓国における日本の文化の解禁です。
両国の経済関係は国交正常化後飛躍的に発展しましたが、日本から設備、部品、素材を輸入し、完成品を第3国に輸出する韓国経済の構造的特質のために
日本との貿易においては慢性的な赤字が継続しました。
しかし、現在の関係は両国民同士の間では徐々に国境の感じられない、隣人の関係になってきています。今後とも歴史問題は残るでしょうが、それが原因と
なって両国関係が緊張し、国民レベルの交流が止まるというような事態はなくなるでしょう。
それでは次の100年はどうなるでしょう。私は次の100年は両国が国際社会の中で協力を強化していく時代、より対等な力関係となった両国経済が世界
の中で競争と協力を進めていく時代、両国がアジアの中の協力の中核となる時代、そしてお互いに学び合う時代になると考えます。
2010年11月ソウルでG20、横浜でAPEC首脳会議が連続して開催されました。これは今後の日韓の国際社会の中での協力を象徴していると思います。
国際社会は新興国、特にアジア諸国の台頭とともに、従来のG8による対応に加えて、G20で取り扱わなければならない問題が生まれています。韓国は新興
国の時代を通り過ぎ、現在はOECD,DACに加盟し、先進国としての役割を高めています。これまでアジアの中では唯一日本がG8として国際的な役割を
担ってきましたが、これに韓国がパートナーとして加わってくれたことは大変心強い限りです。今後日韓が国際社会の中で協力する分野としては、安全保障、
開発援助、環境等の分野が考えられます。
安全保障面では日本は核の不拡散に取り組んできました。韓国は2012年に核セキュリティー・サミットを主催します。日韓両国はこれまでも北朝鮮問題を
はじめ東北アジアの安全保障面で協力してきましたが、最近ではPSI,PKO面での協力を行い、韓国軍と日本の自衛隊の交流も促進しています。
開発援助では、韓国は2015年までに援助額をGNI比0.25%に拡大することを計画しています。韓国の経済開発の特徴は, 韓国人自身の自助努力に
よってもたらされたという点にあります。その意味で開発途上国にとっても参考となることは多いと思います。日本はこれまで長年にわたりODA供与額1位
を占めてきました。最近は、政府予算全体がマイナスとなる中でODAも減額しましたが、日本が長年にわたって行ったアジアに対する援助は、各国の自助努力
とあいまって、多くのアジア諸国を離陸させ、今日のアジアの急速な発展に貢献しました。
環境面においては、韓国はこれから3GI計画を推進しようとしています。これは日本も高く評価しており、日本としてこれにいかに協力していくか検討して
います。加えて、韓国は2012年のCOP18を韓国で開催することを提案しています。日本はこれまで気候変動問題、温室ガスの排出の問題に積極的に
取り組んで参りましたが、今後は主要排出国である米国や中国の動向が鍵となります。先進国と新興国の橋渡し役を果たせる韓国の役割はますます大きくなる
でしょう。
日韓両国の経済関係に目を転じますと、両国が協力する上で現在はもっとも好機ではないかと感じられます。韓国の経済発展によって日韓の経済水準がほぼ
同等な水準になった、両国の経済構造が似通っており国際社会の中で追求する利益には共通のものがある、日韓関係が過去最高の状況にあり、日韓協力について
世論の支持がある、等の環境の変化があります。現に三星やLGが日本の市場に再進出した、日本企業が韓国より設備、部品、素材等を購入したいとの意欲が
出てきている、日本から韓国への投資についても積極的な動きが出てきている、といった新しい流れは将来日韓の経済関係を大きく転換する動きに結びつくの
ではないかと考えられます。また、資源の獲得やプラント建設などで日韓両国が第3国市場で協力する動きも顕在化しています。近い将来両国の経済関係は、
より先進国的な水平分業の経済関係に生まれ変わるのではないかと考えます。
去る12月16日、私は韓国の外交通商部長官、中国大使と3人で日中韓3国協力の事務所設立協定に署名しました。これら、日韓中3国の協力関係はより深
まっていきますが、その協力を進める上でもまず日韓は共通の価値観、国家利益に基づいて共通のルール基準を作るところから始めるべきと考えます。また、
より広くアジアないし東アジアとの協力もその中核となるのは似通った国家利益を有する日韓から始めるべきと考えます。
これまで韓国は大変な自助努力で現在の発展を成し遂げました。その過程において日本の発展の経験が役立ったという韓国の方は多いと思います。しかし、今
後はむしろ日本が韓国の国際化、世界化から学ぶべき点が多いように思います。FTAの締結状況でみるように韓国は将来の国の進むべき方向性を確立しそれ
に向かって国を開いています。また、多くの若者が世界人として育っています。こうした姿勢は日本が今後取り入れていかなければならない点だと思います。
これから日韓両国は一層緊密な関係となっていくでしょう。そのためにも日韓両国を幅広く、かつより深く理解する人材の育成が急務です。2011年が日韓
両国の新しい100年のスタートして、実りの多い年となることを期待します。
皆様ご健勝で良いお年をお迎えください。
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