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公報文化院長コラム



「日韓両国は,競争ではなく尊重により世界に向けて共に歩んでいかなければならない」。


在韓国日本大使館公報文化院長
西岡 達史


【ソウル新聞 2018年11月15日付 西岡達史公報文化院長インタビュー】


  「東アジアが共存と繁栄,平和と発展の時代を迎えることを,誰もが望んでいます。これまでの冷戦構造の残る状況下では,安全保障の必要性という大きな意義が,両国関係を強く支えてきましたが,今後は,それだけではありません。今年に入って韓半島の大きな動きが生じています。決して楽観はできませんが,これまでになかった平和と発展の機会が開かれるかもしれません。そのような中で,日両国は,お互いに向き合って二国間の問題を解決するだけではなく,両国が同じ方向を向いてアジアをリードする関係も求められているのではないかと思います。」

  西岡達史在韓国日本国大使館公報文化院長は,ソウル新聞とのインタビューで「転換期の東アジアにおける日韓両国関係の方向」についてこのように述べた。特に西岡院長は「今年は日韓パートナーシップ共同宣言20周年となる年」とし,「文化と人的交流が両国関係の礎」を作っただけに,これから両国は,違いではなく共通点を,競争ではなく尊重を通じてアジアを越えて世界に向けて共に歩んでいこうということを強調した。

  一方,西岡達史(52)院長は,大阪生まれ(1967)で,東京大学経済学部経済学科在学中に外務公務員採用1種試験に合格(1991)し,その翌年に卒業と同時に外務省に入省(1992)した。その後,在インドネシア(2005)と在イスラエル(2007)日本国大使館一等書記官,欧州連合日本政府代表部参事官(2010),外務省総合外交政策局人権人道課ハーグ条約室長(2012),外務省領事局海外邦人安全課長(2014),外務省国際協力局地球規模課題総括課長(2015)を経て,昨年2月,在大韓民国日本国大使館の公使(公報文化院長)に就任した。編集者注。


「今年始まった東アジアの大きな動きの中で,日韓の協力がますます重要。

日韓関係の発展のために,文化交流が主導して果たす役割は大きい」。


  ⇒ これまで日韓文化交流の推進に尽力してこられたものと思います。文化院の役割について紹介してください。

  - 文化院は1971年から活動しています。1965年の日韓国交正常化から間もない時期であり,日本文化の発信拠点として重要な役割を果たしてきました。韓国において日本大衆文化が開放されるよりはるか前のことです。我が文化院の3階には客席数126席のニューセンチュリーホールがあり,ここで日本映画を上映し続けてきました。当時,ソウル市内のここでしか日本の映画を見ることは出来ませんでした。今でも,昔,日本文化院で日本の映画を見たという方にお会いすることがあるのは,我々の誇りであります。

  ⇒ 院長は両国関係をどのように見ていますか。

  - 日韓関係は,相互理解が鍵となる文化交流主導型の関係だと,自分は考えています。欧州では,第二次世界大戦後,安全保障上の目的から意図的に経済的な相互依存関係を深めました。相互依存を追求してきた欧州とは異なる関係です。

  ⇒ 日韓関係を文化交流主導の観点から考えていらっしゃるのですね。

  - 今年は,日韓国交正常化54周年であるだけでなく,金大中大統領と小渕恵三総理が署名した日韓共同宣言20周年となる年です。この20年間だけを振り返ってみても,政治,安全保障,経済,文化・人的交流という4つの分野の中で,進展したと評価するのが難しい分野もありますが,誰が見ても進展が明らかなのが,文化と人的交流の分野です。韓国での日本大衆文化の開放や日本での韓流ブームは,十分とはいえないまでも,安定した二国間関係の礎を作りました。今後も日韓関係は文化交流が主導していくことが期待され,そうする必要があります。なぜなら,日韓関係は常に難しいからです。

  時折,ささいな問題が簡単に政治問題化し,両国関係が前進する機運を壊してしまいます。国民感情が国家間の関係に影響を及ぼす二国間関係は,他に例がありません。良くも悪くも,両国の国民がお互いを強く意識し合っているためです。しかし,両国ともに民主主義国家ですから,今後も国民感情が二国間関係に影響しつづけるでしょう。

  交流の日常化が大事です。偏見や先入観が相手を見る目を曇らせないよう,相手の目を通じて世界を見ることができなければなりません。今流行している映画やアニメでも良いです。ポップミュージックや食べ物でも良く,芸術や伝統芸能,スポーツでも良いです。相手国を訪れてその日常生活に触れてみることでも良いです。相手国の政治や経済だけでなく,社会を,生活を,人生を知って,相手を身近にし,理解を深める必要があります。

  理想的には,相手国の言葉を学び,相手国に何でも心置きなく話せる友人を作ることが,相互理解に最も役立ちますが,ここまでに至ることは大変困難です。私自身も,ソウルに住んで韓国語を勉強して1年以上になりますが,まだ自分の意見を韓国語で言えるまでには至っていません。それでも一緒に酒を飲みながら語れる韓国人の友人がたくさんいることは大変嬉しいことです。

  ⇒ 文化交流は文化広報の性格を帯びているため,マーケティングの主要手段であると共に国家競争の必須条件と評価されたりもします。

  - 日本文化を伝える目的は,韓国人に,日本文化は韓国文化より素晴らしいと認識してもらうためではありません。その目的は相互理解です。相互理解は,相互の存在と立場を尊重することによって成り立つものです。文化交流は競争ではありません。お互いが隣国との関係を安定的に維持するためには,国民同士の相互理解は必要不可欠であるためです。そのため,文化交流は両政府が同じことを目標にして行う事業です。

  日本の河野外務大臣の下に,日韓文化・人的交流有識者会合が結成されています。日本と韓国との間の文化交流や人的交流をより発展させるための方策を議論するグループです。韓国の康京和外交部長官の下にも,韓日文化・人的交流タスクフォースが結成されています。この二つのグループは10月29日,ソウルにおいて一堂に集まり,両国間で協力すべき施策について議論しました。同じ方向を向いた作業だからこそ,集まって議論することに意味があります。

  さらに付け加えると,日本と韓国はアジアに二つしかない先進民主主義国家です。政治的にも経済的にも世界でもっとも熱い地域である東アジアの発展と成長を主導していくのは,日本と韓国しかありません。そのためには,日本と韓国は互いに向き合って,日韓間の問題を解決していくだけではなく,日本と韓国は同じ方向を向いて,共同の作業に取り組む必要があります。

  このような観点から,相互の違いを知ることだけでなく,相互の共通点を発見することにも大きな意味があります。日韓関係だけを見るのではなく,アジア全体に視野を広げ,また世界全体に視野を広げれば広げるほど,日本と韓国の共通点が見えてくるはずであり,世界の中で置かれた立場が同じであることもよくわかってくると思います。社会構造や産業構造にも数多くの共通点があります。教育や環境問題,福祉や少子高齢化といった社会問題も共有しています。家族や友人に対する気持ちや人生観にも共通のものがあります。日本人と韓国人は,相手国の政治や経済を理解するだけでなく,社会を,生活を,人生を知って,相手を身近にし,理解を深める必要があります。改めて強調しますが,文化交流は競争ではありません。あくまで相手国に対する尊重の上に成り立つためです。

  ⇒ 「違いではなく共通点」,「競争ではなく尊重」は示唆するところが多いと思います。

  - 両国は,伝統文化においても共通の起源を持っているものが多いです。世界的に見ても,共通点や類似点が多いです。その違いを探し出す文化論を展開することは興味深く役立つ場合もある一方で,どちらに起源があるかを争ったり,違いを根拠に相手を批判する材料とすることは不毛なことです。我が文化院では,そのような議論を巻き起こす素地のある活動は行いません,支援もしません。両国ともに世界的に見て大変豊かな文化を持つ国であることは,争う必要のない事実であるからです。

  ⇒ 朝鮮半島には,新たな平和の風が吹いています。今後の両国関係についていかがお考えでしょうか。

  - 東アジアが共存と繁栄,平和と発展の時代を迎えることを,誰もが望んでいます。東アジアは今,新たな転換期を迎えようとしているのです。これまでの冷戦構造の残る状況下では,安全保障の必要性という大きな意義が,両国関係を強く支えてきましたが,今後は,それだけではありません。今年に入って韓半島に大きな動きが生じています。決して楽観はできませんが,これまでになかった平和と発展の機会が開かれるかもしれません。そのような中で,日韓両国は,お互いに向き合って二国間の問題を解決するだけではなく,両国が同じ方向を向いてアジアをリードする関係も求められているのではないかと思います。

  さらに視野を世界全体に広げるとどうでしょう。自由貿易体制や気候変動の枠組みに背を向ける動き,欧州連合からの離脱,大国の保護主義などグローバリゼーションの負の側面に,ナショナリズムで対抗する動きが顕著になってきていると言われています。両国はともに,グローバリゼーションの恩恵を受けてここまで発展してきた国です。グローバリゼーションの負の側面を克服するのに,ナショナリズムではなく,さらなるグローバリズムによって克服していくことを,世界に主張していくことが出来る国です。経済だけでなく,社会や環境の側面も含めた,今後の持続可能な世界に向け,国連で作られた2030アジェンダ及びSDGs(持続可能な開発目標)が示す理念を,率先して主導していくリーダーシップを発揮することが出来る,アジアの二大国家でもあります。


  キム・ビョンシク客員記者

 


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